綺麗な女子学生
綺麗な女子学生
「あれは、理事長じゃないか……」
傍らで位牌を持つ父がつぶやくように言う。
「理事長……?」
頭を上げた侑香は、祭壇の脇にある大きな花輪の列に目を走らせた。
理事長、という文字に記憶がある。
ひときわ目立つ花輪に添えられた札に、その女の名が記されていた。
「学校法人M学園理事長東洞(とうどう)今日子」
侑香の混乱をよそに、女は周囲の目を気にしたのか、視線を寛から外し、棺にそっと手を添えていとおしむように撫でさする。
「ああ、どうして、こんなことに……」
芝居気たっぷりに声を上げる女。
悲嘆にくれるその言葉は、どこかよそよそしいように侑香には思えた。
それでもほかの人々は、今日子の突飛な行動を、故人を悼む余りのものと受け取ったようである。
何人かの女性が、目頭に手を当てた。
ハンカチを口の端に当てて、今日子は二、三歩下がった。
何もなかったように、また葬列が動き始める。
外に出た侑香は、後方をちらと見た。
見送る人々の先頭に今日子が立ち、こちらの方をじっと凝視している。
侑香はその視線が母の棺ではなく、寛に向けられていると確信した。
(何、あれ……あの人と徳能さんの間に何があるのだろう?)
車に乗り込んでからも、侑香の頭からは、そのことが離れなかった。
夜、テーブルを挟んで座った侑香と父は、出前の握り寿司をつまんだ。
横目でテレビを見ながらビールをあおる父の顔を、娘はじっと見た。
何か、がらんとした感じだ。
母がいるときはもっと食卓がにぎやかだった。
いつも一人で盛り上がっていた。
もっとも父はその頃から寡黙ではあったが。
営みレス。
父と母は、この問題について話し合ったのだろうか。
単なる父の性欲減退が原因だったのか。
それとも、父は外に女を作ったのだろうか。
父の浮気相手。
いるとすれば、それはどんな女なのだろう。
侑香には想像もつかなかった。
父がゼミの学部生や研究室の院生をこの家に連れてくることは、たびたびあった。
小学生、中学生の頃の侑香がびっくりするくらい綺麗な女子学生も中にはいたが、父は我関せずといった風であった。