甘い叫び
甘い叫び
巻き戻し終わるまで、ずいぶん時間がかかったような気がした。
カチッという音がするのを待ちかねて、再生してみた。
窓。
天井から下がるしゃれた照明。
どこかの室内のようだ。
油絵や陶器、彫像などが見えてくる。
アトリエだとわかる。
まもなく、画面の中央に、イーゼルが現れた。
その傍らに立つのは、顔を黒い物ですっぽり覆った裸の女だった。
侑香は息を呑んだ。
被写体がややこちらに寄り、その黒い物がガスマスクであると見て取れる。
白い肌は艶やかで、下草の密生度が濃い。
やがて、画面の女は、丸く盛り上がった乳房を強調するかのようにグイと胸を張った。
「こちらに、いらっしゃい」
低い声で、そう言うのが聞こえた。
マスクの奥に光る眼は、レンズのやや右を向いているように見える。
不意に画面の右から黒い影が現れて、左に消えた。
誰かがカメラの前を横切ったのだ。
次に左から現れたのは、やはり裸の男の背中だった。
(ただのポルノビデオ?)
母とはまるで無関係なビデオの中身に、侑香はとまどっていた。
母は何のためにこんな物を持っていたのだろう。
そう思っている間に、男はガスマスクの女の背後に回り、左右の腕を掴む。
女の頭の上に、見下ろす男の顔が見えた。
「……ぅ、あっ!」
ハンマーで頭を殴られるような衝撃を受けて、侑香は、叫び、そしてあわてて拳で口を押さえた。
手から滑り落ちそうになるビデオカメラを掴み直し、小さなディスプレイに目をつけるようにしてのぞき込む。
何度見直しても、そうとしか見えない。
(……と、徳能さん!?)
愛撫されながら、女は頭をゆっくり回し、やや前傾姿勢を強めた。
すでに女の腰は悩ましげにクネクネと動いていた。
「あっ、ああーっ」
悲鳴に似た、甘い叫びが侑香の鼓膜を揺るがせる。
その振動が、子宮にまでこだましていく。
寛は眉一つ動かさずに、背後からの愛撫を続けていた。
やがて、男に背中を向けていた女はくるりと向きを変えた。