半ズボンの膝小僧
半ズボンの膝小僧
「ちょ、ちょっと、キミ、大丈夫?」
「あ……はい……」
弱々しい声。
少年は片肘をついて身を起こし、空いた手で額を押さえる。
「立てる?……こっちに入って」
今日子は肩を貸して、引きずるように少年を戸口の中に入れた。
「ここは芝生だから、横になっても少しは気分がいいわ。
待ってて」
襟元を楽にしてやった。
それから、鞄を少年の側に置くと、いったん勝手口から家に入った。
濡らした小タオルとグラスの水を持ってくる。
「さ、飲める?」
少年の後頭部に優しく手をさしのべて起こすと、グラスを口に当てた。
コク、コクッと喉が鳴る音がする。
グラスを離すと、安堵したように深いため息をついた。
額に濡れタオルを置くと、嫌がってか、手でつまみ上げると
「大丈夫、です」
と言う。
今日子はそれを受け取ると、顔全体を拭ってやる。
逃げ回るように顔を左右に振っていたが、拭い終わると目を開けてニッコリ笑いかける。
何かとても可愛い。
「あら、ここ、少し血が出てる」
半ズボンの膝小僧がすりむけているところを、タオルで拭く。
「あっつーー、痛っ」
「じっとして」
今日子は両手で少年の両膝の少し上あたりを押さえた。
「泥を取らないと、破傷風になるわよ」
傷口はごく浅いものだった。
これなら特段の手当の必要もない。
「ありがとうございました」
少年は丁重な礼を述べた。
殊勝なものだ。
ワルを働くようなタイプには見えない。
「キミ、どうしてやられちゃったの?」
「……」
「ねえ、話して。
私、キミのこと、知らないもの。
誰にも話さないし」
今日子は、胸を隠すように、ワンピースの上に羽織ったボレロの前を合わせて身を乗り出した。