奇妙な光景


奇妙な光景

「あ、あの、父から伝言がありまして……」

 

顔を赤らめながら、侑香は父の言葉を伝えた。

 

代わりに、恵介の一期下の徳能寛がまとめ役を引き受けてくれている。

 

寛は侑香の話を黙ってうなずきながら聞き、最後に

 

「わかりました」

 

と侑香の顔をまっすぐに見て言った。

 

耳触りのいい、はっきりした声だ。

 

(何だ、パパの研究室にも、ふつうに話せる人がいるんだ)

 

侑香はほっとしながらもう一度頭を下げた。

 

「よろしくお願いします」

 

(どうして、父はあの人を紹介してくれなかったのだろう)

 

戻りながら、侑香は思った。

 

研究者としては、恵介の方が優れているからか。

 

そうではなく、他の理由があるに違いない……

 

(きっと、あの人にはいい女性(ひと)がいるんだ)

 

それが、侑香のたどり着いた結論だった。

 

出棺の時が来た。

 

黒い服を着た人垣が左右に分かれ、川のような道ができた。

 

目を伏せ、遺影を持って先に進む侑香は、しずしずと歩を進めた。

 

出口にさしかかったとき、突然

 

「待って!」

 

という悲鳴に近い女の声がした。

 

息をのむようなどよめきが、あたりに広がる。

 

振り返った侑香は、一人の女が棺のそばに駆け寄るのを見た。

 

葬列が、歩みを止める。

 

それは、少し奇妙な光景だった。

 

フォーマルトークハットの女は、棺をかつぐ男のうちの一人の前に立ちつくしている。

 

黒いベールの奥の瞳は、異様に輝いていた。

 

一方、女に見つめられている男は、表情を変えずに涼しい目を返している。

 

寛だった。

 

(え、あれ誰?)

 

侑香は思わず心の中でそう叫んだ。


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